BG学園物語 



 <放課後・1





〜 放課後 〜

= 2・軽音部 = 

「できたできたできたっ!」

さくやんが突然興奮した様子で、エレキギターを持って二人に駆け寄ってくる。
図書委員と して日ごろはどちらかと言えば静かな印象のさくやんだが、愛用のギターを手にしたときとタイムアタックをしている時の集中力といったら、うかつに声もかけられないほどだ。
そんな彼を驚きの表情で見守るのは、キーボード担当HAGI部長と、部員ではないが結局ドラム担当として一緒に行動を共にしている竜騎兵。
さくやんはそんな二人の元へへやってくると、 頭の中でもう一度、今弾いたフレーズを再現してみた。

大丈夫。指はもう覚えた、はず。

二人が静かに見守る中さくやんが弾き始めたのは、BG3Tunedのオープニングテーマ。
ただし、発売されたCDに特別に収められているギターの巨匠、ポールギルバードのアレンジバージョンのほうだった。
常人には弾きこなすなど、到底不可能なギターソロ。
だがあの曲の、ほんの一部だけでも再現できないか? ・・・さくやんが奮起して練習を始めたのは、もう三ヶ月も前のこと だった。

「〜♪〜〜・・・っと」
「すごい!ホントに弾けた!!!」

わずか16小節。それに多少つっかかりはあるものの、二人とも聞き慣れているあのフレー ズが充分再現されていた。
HAGI部長は大喜びで拍手する。驚いた竜騎兵もなんだか嬉しくなって、思わずスティックを握りなおした。
二人とも首を傾げて、竜騎兵の叩くドラムに耳を傾ける。・・・やがて彼らの顔に理解の色が浮かび 、さくやんがすぐにギターを再び構えなおした。
それはさくやんの弾いたフレーズより、少し遡ってのソロ演奏。竜騎兵なりに再現したドラムパートだったが、演奏を聞いてたら思わず合わせてみたくなったのだ。
32小節ほど遡れば、さくやんにとってタイミングを計るにもちょうどいいイントロになる。
やがて二人の音が重なる。合奏によって、「音」が「音楽」に昇華する瞬間だ。
たった一人の観客であるHAGIは、わくわくする思いを隠しきれなかった。
それは後ろから追いかけてきたさくやんの車が、竜騎兵の車と並んでコーナーを攻めてい るような・・・
そう、まるでBG3のタイトルムービーそのもののように、息の合っ た演奏であっ た。



音楽もバトギも、ある意味で世界は同じ。彼らは一様にそう考える。

曲をイメージし、出したい音を再現するためにひたすら練習を積むこと。
コースをイメージし、クリアしたいラインを再現するためにひたすら走りこむこと。
深く関わっていない人なら、逆にそれを『努力』と一言で片付けるだろう。
だが、引き換えに手に入れられる『何か』は、数学の答えのようにはっきりと導きだされるものではない。
魂が揺さぶられるような音楽、理想の走りや理想のタイム・・・それは到底一言では言いきれない、すべてが無制限に求められる世界だ。
中途半端な気持ちでは、絶対届かない領域。

―――だからこそ、そんな音を出してみたい。 そんなタイムを出してみたい―――

彼らはさまざまなことを強く強く望み、歩みを続けて来た。
それがさくやんのギターという形でまた一つ、実を結んだということなのだろう。





「やっべ。一緒に弾いたら震えてきたw」
弾き終えたさくやんは、笑うやら、まだ戸惑っているやらですっかり落ち着きを無くしている 。
「みんなでなんか一曲合わせる? うずうずしてるんじゃない? ぶちょーさん♪」
竜騎兵がスティックをくるくる回しながら、いたずらっぽい視線をHAGIに向けた。お見通しである。
「ちょっと待ってねー、セッティングするから・・・久しぶりにあれ演(や)らない ?一発盛り上がるってことで」
HAGIにはすでに弾きたい曲が頭に浮かんでるらしく、スイッチをあれこれといじ りながら、内蔵されているコンピュータからデータを読み込 んでいく。
「よっし、準備OK!」
「さくやんは?」
シンバルを軽く叩いて、竜騎兵が尋ねた。
「あれ」の一言だけで何の曲を指しているかは、すでに承知済である。
「もちろん☆ いつでもいけるよ」
「んじゃ、イントロはこっちから行くぜぃ♪」
キーボード横のスピーカーから、読みこまれた音とリズムが流れてきて、それにHAGI自身が奏でる高音が重なる。
三人しかいないので、カヴァーしきれない音は事前に譜面をコンピューターに読み込ませることで、キーボード内に録音状態にしてあるのだ。
ビートを刻む低く太いベース音は、さながらスタート直前の胎動を物語る。
重なる高音は、夜、雲の切れ間から溢れ出た一筋の月の光のよう。
一瞬にして彼らの脳裏に広がる、これから走る道。
そしてイントロの終わりに三人の旋律が重なった瞬間、思い描く車たちは秘めた力を爆発させて、コースへと解き放たれていった・・・。











「おっ、あの曲聞くの、久しぶりだなぁ・・・」

静かな店内、レースのカーテンが静かに揺れる喫茶ばとるぎ屋。
三人が演奏している校舎と道路向かいに面しており、その音はカウンターに腰掛けているブリキ艦の耳にも届いていた。
カウンターの中で真っ白い皿をふきふきしている店のマスター=ESE−typeRが、出来上がったコーヒーを注いでブリキ艦に差し出す。
カップを置いたカウンターには何やら紙の資料がずいぶんと広げられていて、思わず目を止めた。
「イベントの企画書か何かですか?」
「うん、模型部とかと協力して、ちょいと大掛かりなモノを作ろうと思ってね」
いたずらっぽい笑みを浮かべたブリキ艦に、首を傾げるマスター。そこへ。
「こんちわ〜。ここにブリキ艦先生来てますか〜?」
と三人の生徒が入店してきた。きょろきょろと店内を見回す三人に、ブリキ艦が軽く手を上げる。
「おお、来たな。それじゃマスター、ちょっとそっちのテーブル借りますわ」
「どーぞー」
広げた資料を集めて、席を移動する。席に着いた三人は、ブリキ艦が提示した資料のタイトルを見て目を丸くした。
「んじゃ、始めようか♪」



『学園祭共同テーマ=トルネードリプレイの3D映像化〜映像・リアルタイム制御・模型技術の融合の可能性について ブリキ艦・なにぱん』



・・・学園祭まで、あと3ヶ月。





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