BG学園物語 



 <放課後・2




〜 放課後 〜

= 3・寮長の楽しすぎる日々 =

私が寮長のT.Tであーる!

我が寮『モモクマーズハイツ』には現在、30名が入寮している。
生徒たちは皆、互いに助け合い、ライバルとして刺激しあったりと、楽しく、すばらすぃ〜寮生活を送っているのだ。

「寮長!醤油がなくなったっす!」

今日も寮で事件発生のようだ。すべて私が解決してみせよう!
貯蔵庫までひとっ走り。塩分ひかえめ昆布醤油、うむ、これだな。
寮生が快適に過ごすため、このくらいの運動は苦ではない。 楽しそうに食事時間を過ごしているのを見て、充分満足な私なのである。
・・・その仕事に少々疑問がないわけでもないが、たぶん気のせいだろう。

門限は夜11時。私は食事後、この時間は大抵寮生たちと会話を楽しんでいた。 消灯は12時。ひとっ風呂浴びた連中、ゲームに熱中して消灯まで気づかないであろう連中、おやつやらコーラやらをこの時間から消化し始める連中とさまざまである。
寮内を簡単に見回って、個室に戻る。小さい冷蔵庫から取り出したのは愛用のピンクラベル、モモクマビールである。
ちょいと辛口で、後味が華やか。このキレ味がたまらんのぅ。

・・・・・・ぉぉん
「むっ?」

かすかな音だったが、私は缶を無造作にテーブルに置いて、カーテンの端からそっと外を見た。
だが、二階にある私の部屋から駐車場のすべてを見渡すことはできない。視界に異常は見当たらなかった。 だが、どうにも胸騒ぎがする。
私はニヤリと笑って、引き出しを開けた。
「・・・ふふふふw」
奥の秘密スイッチをぽちっとな、と押した瞬間、天井からするするとスクリーンが下りてきて、とある画面が映し出された。このスイッチを押すと、屋上に360度回転可能なライブカメラが建物の中から飛び出してくる仕掛けになっているのだ。
「見ぃ〜つけたっ」
暗闇の中、無灯火でこっそり敷地内を動く車を発見。さすが高感度カメラである。
私は鍵の束からとっさに一本を選んで、うきうきしながら部屋を飛び出した。

 

「「げっ、バレた!」」
横から飛び出してくるヘッドライトを認めた脱走組は、運転席で同時に叫んだ。
「絶対寝てると思ったのにぃ〜」
「明かりもつけてないし、死角逃げたつもりだったのになぁ」
さすがにカメラのことまでは知らなかった、ずるうないとたっとの二人。逃げ続けるか、いさぎよく捕まるか。どっちのほうがより後が怖いだろう?と思いつつ、アクセルを緩めることができない。
まだ距離があるので、車と乗り手がバレてないことを祈りつつ、二台は並走してゆく。
と、ずるうないが前方にとある何かを認めて、クラクションを軽く鳴らしてたっとの気を引いた。
気づいたたっとに向かって、前を指差す。
「?」
たっとも、目を凝らしてそれに気づいた。
―――いつもは、誰もが苦手なもの。だが、今この瞬間だけは救世主になりうるかもしれない。
親指を立てて了解のサインを送って、二人は次の交差点で左右に分かれた。
さて、これで振り切れるだろうか。間違っても自分のほうに来んなよ〜!
・・・そう必死に祈る二人に、猛烈な勢いで寮長が迫ってゆく。

 

う〜ううぅ〜〜
「はい〜。そこのS2000、ちょっと止まりなさ〜い」
「げっ!」
すれ違った白黒のパンダもどき。ぎくりと思った瞬間、赤灯がくるくる回ってUターンしてくる。・・・なんで私が捕まらねばならんのだぁ!
ビクビクしながら車から降り、事情を説明する。話を聞いて、少し年配の警察官は納得した様子でうなずいてくれた。どうやらスピードは気づかれず、ベルト違反もないらしい。ほっと胸をなでおろす。とばしそうな雰囲気の車を呼び止めて注意しとく、というコトだったらしい。
学園の先生方も大変ですなぁ、とねぎらいの言葉もいただいた。あいつらを逃がしたことになるのは残念だが、捕まらなかっただけマシだと思わねば・・・
と こ ろ が。
「なるほど。逃げた生徒さんを追いかけていらっしゃった、というところまでは理解できましたが・・・もしかして先生、飲んでません?」
「?」
何のことを言われたのかわからなかったのも、一瞬だけ。
「!!!」
その瞬間の私は、完全に言い訳できないカオをしていたに違いない。
「法律、厳しくなっちゃいまして・・・もちろんご存知ですよねぇ?」
あはは、は、は・・・・
さっきまで穏やかな顔に見えた警察官の方が、桃熊の顔っぽく見えるのは ナ ゼ デ ス カ ー ?
私は引き攣った笑いを浮かべて、そこに立ち尽くすしかなかった。

 


 

―――むす〜〜〜
「・・・おい、寮長、えらい機嫌悪いな」
寮生のささやき声が聞こえてくる。当たり前だ!という怒声はかろうじて飲み込んだものの、仏頂面だけは隠しようもない。

あの後。 結局私は、警官のオジサンにひたすら頭を下げ続けた。
見た目とか言動とかで酔っているようには見えず、(たまたま近くで話をしたので、アルコールの臭いに気づいたのだそうだ)本当に一口だけだったということ。
このまままっすぐ寮に戻ることを確認して、パトロール中の警官のオジサンは、今回は自分の胸におさめておく、と言ってくれたのだった。
当然顔も名前もばっちり覚えられてしまったので、再び出会った時、二度目の慈悲はないだろう。

 

一方で、捕まらずに無事帰ってきた二人は、別の意味で生きた心地がしなかった。
寮長の不機嫌がすっかり寮内におびえた空気を蔓延させてしまい、逃げ切れてラッキー☆・・・の一言で片付けられそうな雰囲気ではない。
「誰だよ、寮長怒らせたヤツ・・・」 という誰かのボヤキに、素直に名乗り出るほど命知らずにはなれなかった。

―――今真相が明らかになったら、確実に血を見ることになるな・・・。

寮長や寮生たちの思惑に隠れ、ひたすら沈黙を貫くべし、と決意を固める二人であった。

 

 

「・・・今度はビデオに撮って、分析できるようにしておかねば・・・めらめら」
寮生にとって、世にも恐ろしい決意が生まれるのは、また別の話。

 

 

>>次の話はちょっと未定・・・学園祭はまだ先。たぶん修学旅行が早いw



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