BG学園物語 



 <午後 1





〜午後 2〜

静まり返っていた会場が一気にどよめいたのは、二人のドライバーが姿を現した瞬間だった。
「やっぱりACE先生だっ!!!」
「だから言っただろ〜! あんな速ぇインプ、他に絶対いねーって!」
「B.Rのヤツ、ACE先生と互角に走ってたのか!?」
と、そんな悲鳴にも似た驚嘆の叫びが飛び交う一方で、不思議な声が交わされていた。
「・・・NSXのあの人、なにモン?」
「おっかしいなぁ・・・どこかで見たことはあるんだけど・・・」
そう。生徒たちは、美術教師ACEのことをすぐに見分けることができた。
だが、今一方の乗り手のほうにはなぜか「?」と首を傾げるばかりだったのだ。
唯一例外は、この二台を止めた、二人の教師だった。
生活指導担当は、顔を引きつらせて喉まで出かかってる言葉を抑えてる様子だし、国語教師のほうはというと額に青筋を浮かべ、頭を抱えながら何やら唸っているようだった。
「いやぁつい熱中してしまったね、ACE先生」
そんな二人の葛藤(誰が見ても一目瞭然だろう!)が見えてるのかいないのか、はたまた見えないフリをしているのか。
白いNSXの乗り手は、陽気な声でそう話し出した。
「まったくですねぇ。それにしても教頭は相変わらず、バカみたいにお速い。久しぶりに血が騒ぎましたよ」
「そんな謙遜謙遜。最近の若い子達は才能の固まりだからね。ずいぶん生きのいい車が挑んできたもんだから、大人気なく本気で走ってしまったよ」
「またまた、それこそご謙遜ですなぁ」
わはははは!・・・と、二人は和やかに談話している。
頼むから、少しは場の雰囲気というのを見てくれよ!
魔王GTRとユキが心で必死にそう叫びながら頭痛をこらえてる間、生徒たちは皆顎が外れそうになりながら、しーんと静まり返っていた。



―――教頭? 教頭って言いましたか? 今。



その言葉の意味を生徒一人一人が正しく理解し、浸透するまで、軽く十秒の間はあったであろう。
「はぁ!? マジで〜〜〜!」
「あっ、思い出した! 去年の冬のスノーラリー大会ん時、ハウスにいたよ!」
「あれって教頭なの!? オレら入学式終わったばかりに、誰も見たことないってどーゆーこと!?」
・・・ごもっとも。
学園の生徒暦によって内容は様々だが、ユラと静瑠はそんな生徒たちの叫びを聞いて、思わずそう呟きを返してしまった。
「やっぱり・・・」と一言言って、がっくりと肩を落とした静瑠が、ユラにはさすがに気の毒に思えた。
生徒たちがはっきり知らないのも無理はない。
教頭Rosieはとにかく、堅苦しい公式行事に参加することがない(先日の入学式は、もちろん無断欠席)。
そのくせ、面白そうな祭りごとにはいつのまにか参加していて、最終的に事務処理を押しつけられる側の静瑠にとっては、どこに進むかわからない台風のような存在であった。
「毎年、生徒が教頭の顔を覚える時は、決まって何か事件があるっていうのもなぁ」
「ユラ、それは言わないでよ頼むから・・・」
さて、静瑠と同じ心境で頭を抱えているユキは、隣のブラックホール・オーラが徐々に増していくのを素早く感じ取った。
生徒たちが怯えるこのオーラも、一番近くにいる、一番の元凶にはまったく影響していない。
もはや爆発寸前であったが、曲がりなりにも相手は教頭である。まさか掴みかかったり、耳元で文句を叫ぶわけにもいくまい。
「・・・はい」
ユキは懐からメガホンマイクを取り出して、隣に差し出した。そんなものどこから出したのかという細かい突っ込みは、この際無視。
魔王GTRは無言でそれを受け取ると、二人ののんきな教師がきょとんと見つめる前で、生徒たちの方へくるりと向き直った。
大きく息を吸いこむ音を聞いた国語教師は、さりげなく一歩離れて、指でしっかり耳栓をする。
次の瞬間、校舎の中まで聞こえるほどの怒声が、会場中に響き渡った。

「てめぇらー!!! 午後の授業はどうしたーーー!!!!!!」





>>「午後」は次回で終了。・・・授業は結局どうなるでしょう?



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