BG学園物語 



 <昼休み 2





〜昼休み 3〜

生徒たちが集まりつつある7番コース。
そこに一足早くたどりついたB.Rは、ヤキソバパンの最後のかけらを口に放りこんだとき、彼は一番走りなれているコースにすでに先客があることを知った。
(NSXだって!?)
真っ白い優美なフォルムが見えた。よく晴れた空を背景に白い残像を残す、それはまるで一点の汚れもない飛行機雲のよう。
・・・この7番コースは海沿いにありながら、岸壁の上を走るという一風変わったコースで、走っているとまるでそのまま海に向かって飛び立ちそうな錯覚を覚える。
一点の曇りのない空と、海が穏やかな日には、絶好の景色が目の前に広がるのだ。B.Rがこのコースを特に好むのも、その景色に惹かれたからだった。
コース自体も幅は広いほうで、冷静に走ることができれば、間違ってコースアウトする危険は少ないうちに分類される。
だがこのコースの一番の鍵は、その景色にあった。
スピードを上げれば上げるほど、地に足のつかない感覚はこの景色と重なって、コースの高さそのものがドライバー自身予想もしない恐れを、アクセルを踏み切れない迷いを生み出すのだ。
音を聞けばわかる。このNSXの乗り手にはそんな迷いやとまどいが微塵も感じられない。
それどころか、更なるパワーを求めてもがいているような感すらあった。それほどに、高速域でありながらゆとりを感じられる走りだったのだ。
思わず身震いがした。
だが、目の錯覚かもしれない。一緒に走ってみたら、遠くで見ているほどの速さは案外ないのかもしれない。
B.Rはそう自分に無理やり言い聞かせて、7番コースに一番近い駐車場に停めている自分の車に向かって走り出した。



「そういうことか・・・」
大勢の生徒たちで観客席が埋め尽くされた、大歓声の上がる7番コースは、さながら公式戦ともいうべき盛り上がりを見せていた。
観客席の隅、高い位置から見下ろしているユラは一人納得したようにうなずいた。独り言はもちろん、たちまち周囲の喧騒にかき消されてしまう。
そんな時ふと側に人の気配を感じた。
「ユラ、あれはもしかして・・・」
いつの間にか静瑠も駆けつけてきて、ユラと肩を並べている。NSXから目を離さないままでそう尋ねられると、ユラは苦笑して答えた。
「さすがに、現役連中にはわからないか」
「やっぱりそうなんだ」
傍で聞いていたら何のことかまったくわからないやりとりだったが、ユラも静瑠も、観客の視線を釘付けにしている白い車の正体に確信を持っていた。
「それにしてもあの方が来ているのに、教師連中も意外と鈍いんだな」
「いや、職員室に寄らなかったあの人が悪いと思うのは僕だけ?」
「それもまあ、一理あるか・・・」
「見つかったら絶対こうなるってこと、あの人が一番よーーーく知ってるはずなのに」
ほんの少し恨めしげに聞こえて、ユラは再び苦笑した。職員室でいろんな人から「気まぐれなあの人」に対しての文句を、山ほど聞かされているのだろう。
「知ってて、あえてやってるとしか思えないけどね、俺は」
静瑠は思わず憎らしい視線を車に投げつけるが、次の瞬間にはその殺気もふっと和らいでしまう。
「わざとかどうかは別にしても・・・やっぱり走りは見事だね。それは認める」
「確かにな」
二人はそうして二台のバトルに注目したまま、成り行きを見守っている。
新学期早々からなんとも騒がしいことだが、沈滞してるよりはよっぽどいい。

そこまで考えて、ユラはあることに思い当たった。
もしかしたらあれは、「あの人」なりの新入生の歓迎なのかもしれないな、・・・と。





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