BG学園物語 



 <昼休み 1





〜昼休み 2〜

購買は学園中から集まってきた生徒と教師が入り乱れて大騒ぎになっていた。
圧倒的に男子が多いので、ガラスケースに収められた目指す商品がみるみる減っていくと、後ろから猛烈な殺気が襲ってくる。
特に人気のパンが無くなりそうな時は、前列から最後方まで巻き込んでの大戦争だ。
うごはそんな購買の内側に立っていて、次々と伸ばされる手に目を回しながらお客をさばいていた。
購買係になろうとした理由はなんとも簡単なものだ。
ここのヤキソバパンは彼も好きだったのだが、なにぶんこの惨状なのでありつける日は本当にまれだった。
だったら最初から“中の人”になって、好きなものを確保しておけばいい。バイト代ももらえて一石二鳥じゃないか・・・それだけの理由だったのだ。
そのヤキソバパン。確かにうごの分は、カウンターの後方の棚の中に見えないように一つ取り置きされている。
だが、この様子ではいったいいつ食べることができるんだ・・・?
しかもかなりの肉体労働・・・ヤキソバパン一つと引き換えに買って出た苦労に真剣に後悔しながら、パンとお金の嵐にもまれていた。

「うわー、完全に出遅れたな」
桜葉とエスオーは購買部を遥か彼方に眺めやって、ぽりぽりと頭をかいた。肝心のエプロン姿も、ここからではさすがに人の群れに埋もれて見ることができない。
購買部のカウンターは、決して広いとは言えない。
余裕を持たせてしまったら、かえって生徒たちが身を乗り出してパンを勝手に強奪していってしまうのだ。奥から無数の手が伸びてくるカウンターの中からの景色は、さぞや恐ろしいものであろう。
「先にあっちで飲み物調達してくる?」
混雑を少しでも避けるべく購買部では飲み物を扱っていない。自販機スペースが別にあるので、桜葉はそう促した。
エスオーがうなずいて、移動しようとしたその時。
目の前の群がりの一部が奇妙な雰囲気に包まれた。玄関に近いほうの生徒たちが、次々と群れを離れて駆け出してゆくのがエスオーの目に映った。
「?」
騒がしいのと少し距離がある関係で、エスオーと桜葉の二人にはとっさに事情がわからない。自然と、そちらに注意が向けられる。
一人が駆け去ろうとする瞬間、別の誰かに聞かれたのだろう。一瞬振りかえり、何事か叫んだかと思うと一目散に走っていった。
それを聞いた人たちもまた驚いた表情を浮かべて、買出しを後回しにしてまで後を追いかけてゆく・・・そんな光景が見て取れて、桜葉は首をかしげた。
「何かあったのかな」
「さあ・・・?」
人だかりが一気に半分になったところで、エスオーは一人後輩を見つけたので肩を叩いた。
正確には首根っこを捕まえて引き止めた、と言うべきだろう。その相手もまた、今にも駆け出そうとするところだったから。
「わっ!」
「RAGE、ちょっとタンマ」
「あ、エスオー先輩! 桜葉先輩も」
「よっ、RAGE。何かあったのか?」
一瞬飛び上がりそうに驚いた新入生のRAGEだったが、相手が入学前から仲良くしている先輩とわかり、興奮した様子で話し出す。
「あのですね、誰かが無断でバトルしてるらしいんですよ!」
「・・・本当か!?」
「ええ。7番でやってるって噂が、今すごい勢いで学校中に広まってるらしくて・・・先生方にバレたらどうするんだろう・・・」
(―――7番だって!?)
RAGEが不安な様子でうつむいたが、ここでようやく事情を知った二人は思わず顔を見合わせた。
それは自分たちだって動くに決まってる。
「僕が入ってきてからこんなこと初めてだから、校則違反ってどんな風になっちゃうかよく知らないし・・・・って、先輩っ! 僕も行きますよーーー!」
いつの間にか置き去りにされそうになったRAGEが、あわてて二人の後を追いかけた。



・・・その頃にはすっかり閑散となった購買部で、うごが泣き笑いの表情を浮かべてぽつーんと立ち尽くしていた。
もちろん、この頃には彼の耳にも事情は届いている。うごは誰ともなく訴えかけた。
「お〜い、俺も見に行きたいぞーーー」
購買部のオバちゃんことヨシさんは、そんなうごの泣き言を聞きつけて後ろ頭を軽く叩いた。
「ダメダメ。あと30分、時間までき・ち・ん・と!番するんだからね」
「ふぇ〜〜〜い(泣)」





>>昼休みはまだ続きます・・・



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