BG学園物語 



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修学旅行でGO! 〜でっかいどー北海道〜

1・千歳〜札幌

「北海道、いち・ばん・のりっ!」
元気な子犬が駆けてくる様に、飛行機から一番最初に駆け出していったのはRAGE。初めての北海道で嬉しくて仕方がないといった様子で、他の者たちの笑顔を誘っていた。
「いやぁ、たまには狭い車から開放されるのも悪くないですね」
大きく伸びをして、深呼吸しているのは数学教師ぜっとん。他の教師連中もそろって頷く。

BG学園修学旅行。今年は作者の都合で、全員まとめて北海道へジャンプすることになった。車を学園に残し、飛行機でひとっとび。しめて5泊6日の大遠征である。
車で走る際は都度現地でレンタカーを調達するのだが、今回のメインは正真正銘、ゲーセンを巡ってのバトルギア旅行である。
「こうやって来てみると、やっぱ夏の北海道は過ごしやすいなぁ」
「和歌山よりはカラっとしてますからね」
慣れた様子で千歳空港の中を歩く、北海道出身の国語教師とゆうちょは、見渡す限り田舎な風景をなつかしそうに眺めた。
「さーて、ここから快速で札幌に向かいますからねー。荷物忘れずに持ってくださーい」
「「「はーい」」」

 

北海道では昨今、ゲーム環境自体が著しく悪化しつつある。 函館、帯広、旭川、釧路・・・聞きなれた都市で、バトルギア稼動店舗どころか、ゲーセンそのものを探すことすら難しい中で、札幌だけはかろうじて店舗数を保っていた。それでも、大手アミューズメントの勢いに押されて、小さな店がひっそりと姿を消すことも少なくなかったが。
午後6時。某大型アミューズメント店にて。
ここは札幌一ドラゲーに力を入れていることで、地元ではちょっとした有名店である。 バトルギアのほか最新の主だったドラゲーはもちろん、セガラリー、リッジレーサー、旧バトルギアなどの懐かしいゲームも多数あり、特に教員組がこれに夢中になった。
一方で、新作ドラゲーの一画に自然と集まった生徒組であったが・・・
「♪〜」
「げー! なんだよそのタイムはぁぁ〜」
教員たちが集まる旧作のほうからそんな叫び声が次々に聞こえてきて、生徒たちの一部が首を傾げた。
なんとなくそちらの様子を見に行くと、情報処理科教師なにぱんがセガラリーを走っている。
「すっげぇ〜☆」
プレイを見るや否や、生徒たちは釘付けになった。 なにぱんはいとも簡単に、その店舗に残されていたタイムを大幅に塗り替えてゆく。
当時このゲームでは有名だった「壁ターン」を駆使したプレイを、始めて見た生徒も多かった。 見るからに難しいエキストラステージもすいすいとクリアしたなにぱんは、「案外覚えてるもんだなぁ」と独り言をつぶやいて台を離れ・・・背後のギャラリーの山にびっくりして、一歩後ずさった。
「な、何!? この人だかり」
「何って、なにぱん先生見てたに決まってますよw」
技術教師ターボ狂が苦笑して答えた。他の面々も、「いいもの見せてもらった〜」と満足げである。
「ねぇ、バトギフロアに現地プレイヤーがいるよ!」
何気に振り向いたトニーがそう叫んで、「おっ、行こうぜ行こうぜ!」と生徒たちが一斉に動き出した。
突然多くのプレイヤーが群がってきたので、プレイしていた現地の若者はかなり驚いた様子だった。少々怯えた感じすら見受けられる(そりゃ、日頃閑古鳥が鳴いてるバトギに、いきなり30人以上もぞろぞろ集まったら・・・ねぇ)。 が、人見知りしないずるうないを筆頭にいろいろ言葉を交わしていくうち、どうやら新たな交流が生まれそうな雰囲気だった。
さて。生徒たちのそんな良い雰囲気を遠くから眺め、古いレースゲームの話題で盛り上がっていた教師組だったが、ターボ狂がふと首をかしげた。
「あれ、TORNEO−R先生と理事長は?」
言われて初めて、二人の姿が見当たらないことに気づく一同。
「・・・? そういえば・・・」
「どこ行ったんでしょう? 禁煙だから、どこかで一服でもしてるのかな」
そんなわけで店内を探し回った彼らであったが、結局見つからずに教師の中には心配する者も出始めた。
・・・が。ある一人だけは、まったく別の予想を立てていた。
この店を出れば、道路向かいにある地下鉄の駅。そして、その地下鉄でわずか二つ駅隣には・・・。
そこまで考えて、国語教師ユキの「もしかしたら」という直感は、ほとんど確信に変わった。ぽんと手を叩いて、教師組の意識を集める。
「そうだ、みなさん。ここの近くにも、大きいゲーセンがあるんですよ。地下鉄でほんの10分です。良かったらそっちにも行ってみませんか?」
突拍子もないような提案に、教師一同目を丸くする。
「って、理事長さんたちはどうするの?」
困りきった顔のターボ狂に、自信たっぷりの答えが返ってくる。
「大丈夫です。間違ってなければ、たぶんその店に先に行ってると思いますから」
「???」

 

「・・・この辺りって・・・」
“大きいゲーセン”に案内された一同は、ゲーセンよりもその周辺をきょろきょろと眺めて声を失っていた。
担任RINKA♪は、オチがすっかり読めて爆笑寸前の表情である。
そしてこんなお膳立てをした以上、偶然というのは起きて然るべきなわけで。
「あーれぇ、とるね〜さーん! こんなところで何やってるんですかぁ?」
「「げっ!!!」」
ことさら大声で呼びかけられて、二人は飛び上がった。恐る恐る振り返る。

まさかこんなところで誰かと遭遇す・・・―――って、全員かよ!?

「理事長・・・」
「とるねー先生・・・・」
「・・・・」
多数の視線ビームに晒されて、逃げ場を失いかけた二人はあたふたと視線を泳がせ、そこにゲーセンがあることに気づいた。
そう。彼らはこの時初めて、そこにゲーセンがあることに気づいたのだ。これこそ不幸中の幸い、地獄に仏。
「そ、そ、そ、そうなんだ。この店を下見に来てたんだよ!」
「大きな店だったから、バトギあるかなぁと・・・」
必死の言い訳と、最高の展開に笑いをこらえるのが必死のRINKA♪は、ここで担任らしくまとめた。
「じゃあ、みんなで行きましょうか。間違ってもここ以外の店には行ったらダメですからねー」
「「「はーいw」」」

 

通称“札幌の歌舞伎町”、ススキノ。 そこは夜の街、ネオンの街、大人の街。
ただし、ススキノのすぐ近くあるス○イビルについては、本当に大規模なゲーセンで、立ち寄る価値が十二分にあることをここに付記しておく。

 

 

「あれ、なんか落ちましたよ。名刺? えーと・・・『まゆみ』『わかな』・・・」
「「どわーーー!!!」」

賑やかすぎる、修学旅行一日目。

 

 

 

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